研究設備・機器利用の当たり前を変えたい!
文部科学省が取り組む共用事業

「共用機器の使用を検討しているが、何を見たらよいか分からない・・・」「民間企業の機器や受託サービスに国からの補助金(科研費等)を当てても問題はないのだろうか?」

共用機器の利用を検討したときに、「目的の機器の検索方法」「研究費の扱い」等に悩む人が少なくありません。今回は、皆さんが抱える疑問を文部科学省にて研究基盤整備を担当する水田さんに率直に伺ってきました。

文部科学省における共用機器への取り組みや活用方法をはじめ、共用機器に対する研究費の扱いや位置付けについても教えていただきましたので、利用を検討している人はもちろん、国からの補助金(科研費等)を民間のサービスに当てたいと考えている人もどうぞ最後までご覧ください。

※共用を進める文科省担当者の声であり、国からの補助金(科研費等)の活用使途については、各制度ごとの要領などを確認ください。

研究基盤整備の役割は「研究者の研究環境を作る、研究者のアイデアの具現化を支える」

――水田さん、よろしくお願いいたします。早速ですが、現在携わられている研究基盤整備について簡単に教えてください。

水田さん(以下、敬称略):研究基盤整備を一言で申し上げると「研究者の研究環境を作ること、研究者のアイデアの具現化を支えること」です。研究を活性化させるためには、資金や人材に加え、設備といったモノも必要不可欠です。

こうした背景から文部科学省(以下、文科省)では、主に「1.共用促進法に基づく施設の整備・運用」「2.研究プロジェクト等で得た既存の研究設備・機器のネットワーク化、外部共用」「3.共同利用・共同研究の認定、支援」という3つの取り組みを推進しています。私は1と2の担当です。

水田 剛(みずた ごう)さん:2012年文部科学省へ入省し、産学官連携や原子力損害賠償関係などに取り組む。経済産業省への出向も経験し、2018年4月から現職。

――主に携わる2つの事業について具体的にご説明いただけますか。

水田:「1.共用促進法に基づく施設の整備・運用」では、SPring-8やSACLA、J-PARC等の大型施設整備や運営を国の立場からサポートしています。

「2.研究プロジェクト等で得た既存の研究設備・機器のネットワーク化、外部共用」では、大学の研究機器を中心に学内の研究室において分散管理されている機器の研究組織単位による一元管理サポート体制の構築に向けた支援、一機関に一つと持てないような先端的な研究施設・設備を国内でネットワーク化し広く研究者の方々に活用いただくための支援等を実施しています。


――様々な方と接する機会が多いようですが、研究基盤整備の仕事を通して特に大変なことは何でしょうか。

水田:「研究基盤は存続することが当たり前」という認識を持たれている点です。大学の先生方などから「なぜ構築したサポート体制やネットワークは継続して支援できないのか?」というお話をいただくことが多々あります。正直、耳が痛いです。継続しずらい原因としては、国の財政事情が厳しくなっていることが理由として挙げられます。

「共用という概念を持たせる」大学における実験機器の“当たり前”を変えたい 

――研究機器の共用に携わる全国の先生たちの声を聞く中で、特に印象的なお話がありましたら教えてください。 

水田:機関内で共用を進める中で、「周囲からの理解が得られにくい」というお声です。この背景には大きく2つの理由があります。「1.他の先生たちからの理解」「2.大学からの評価」です。

1.については、これまで研究室の機材は個人(研究室単位)で管理することが一般的ということもあり、「個人で使えるのに、なぜオープンな環境にする必要があるのか?」という認識を持たれる方が少なくありません。


――「2.大学からの評価」についても詳しく伺えますか。

水田:大学や研究者における評価指標は、研究成果や資金獲得をはじめ、教育や地域貢献などの要素で決まるため、“共用の取り組み“は評価として反映されにくいのが現状です。

だからこそ一つの方法として評価指標のひとつに”共用“という概念を加えられたら、今頑張ってくださってる先生方を応援できるのではと思います。そのためには、大学マネジメントのあり方をはじめ、事務方や組織トップへどのようにアプローチをするかが重要だと考えます。


――仰られる通り、大学全体で共用を推進できる体制になれば大きなムーブメントになりますね。では文科省内で活動を進める中で、水田さんが感じる課題を教えてください。

水田:「文科省内における連携・活動をどのように行うか」です。共用の取組を進める上では、大学の運営等を担当している部局や学術的な研究施設・設備を担当している部局など、複数の部局に跨っています。

各部局では各部局の考え方や各部局で担当する事業や制度などがあるので、それを理解して共用を推進できる体制にできるかが課題です。また、継続的な予算獲得に向けた説明が難しいのも事実です。

他国では研究開発の国家予算は増えているにも関わらず、日本はほぼ横ばいにあります。対して実験機器は精度と比例して価格は高くなるため、欲しい機器があったとしても購入できないという現象が往々にして生じます。

機器共用における産学官協業の可能性

――現状への問題意識、お言葉からひしひしと伝わってまいりました。ここからは、既存の共用機器を利用したい人に向けて、どのような利用方法があるかを教えていただけますか。

水田:経済産業省やJST、研究所個別の取り組みなど様々ある中で、文科省の中で私が担当しているのは「1.研究テーマ毎の全国プラットフォーム」「2.各大学、研究所毎の共用システム」の2つです。1.は、全国に6種類のプラットフォームを構築しています。


――これらのサービスを利用する上での、注意点を教えてください。

水田:「1.共用プラットフォームごとにルールやサポート範囲が異なる」「2.料金が違う」「3.申し込みから使用までに準備期間が月単位で必要な場合がある」の3つです。例えば2.は、使用機器はもちろん、実績公開の有無等に応じても金額が変動します。また3.の場合ですと、プラットフォームによっては準備期間が1〜2ヶ月かかるケースもあるため注意が必要です。


――共用プラットフォームの担当者と話したときに、「一元化したという声が上がっていました。将来的に文科省の方で、データベースの開発などは検討されているのでしょうか。

水田:現段階では具体的なものは検討しておりません。共用機器の「見える化」について文科省でも課題としては重々認識しておりますが、長期的な運営や戦略的な広報といった観点から“持続可能なものにすること”が我々だけでは困難だと思っています。各機関において、共用機器のポータルサイトの構築が進んでいるので、一度ご覧いただきたいと思います。もし今後必要とされれば、広報的知見や運営に関する知見を持つ民間企業を交え、共同で考えていきたいと思います。

※参考:
先端研究基盤共用促進事業(共用プラットフォーム形成支援プログラム)のホームページ 
先端研究基盤共用促進事業(新たな共用システム導入支援プログラム)のホームページ 
先端研究基盤共用促進事業(新たな共用システム導入支援プログラム)のパンフレット 


「どんどん共用を加速してほしい」国からの補助金を使用した共用機器の利用は可能

――大学や研究機関の中には、科研費をはじめとする研究費を使い、共用機器の利用やその一環としての分析委託、機器のメンテナンス等を民間企業へアウトソーシングすることを検討しているグループもいるようです。文科省はその点に対して、どのようにお考えか教えてください。

水田:私としては、民間はサービスを提供するノウハウをお持ちなので、民間も巻き込み、その知見を活用した共用に取り組むことは有益であると考えています。


――科研費をはじめとする研究費で購入した機器の共用も可能なのでしょうか。

水田:2015年までは国からの補助金等で購入した機器の利用に関する制約は大きかったです。しかし、2015年度の競争的研究費改革(※)を受け、科研費等で購入した大型研究設備・機器の原則共用化が決定しました。

このため、機器を共用し空いている機器は皆さんで使用してほしいと思います。もちろん、2015年以前の研究費で購入されたものでも共用していただいて問題はありません。


※参考:
文部科学省 研究成果の持続的創出に向けた競争的研究費改革について(中間取りまとめ)の公表について 
文部科学省「競争的研究費改革に関する検討会」中間取りまとめ(概要)~研究成果の持続的創出に向けた競争的研究費改革について~ P.3



――もしかしたら、制度が変わったことを知らない研究者の方が多いかもしれません。

水田:仰る通りです。各種文科省やJSTファンドの公募要領等に明記しているとはいえ、「制度を変更しても、その内容を浸透させることの方が難しい」という認識を持っています。

だからこそ、お客様たちと接する機会が多いCo-LABO MAKERのような民間企業などからもサービスとして実施して大丈夫ということを申し上げていただき、どんどん発信していきたいです。


――情報発信を通して、文科省として力を入れていきたいところはどのような点でしょうか。

水田:研究費使用に対する啓蒙活動です。実は文科省が使用にあたり制度としてOKを出していたとしても、大学側の運用の中でNGが出るケースがあります。適切な情報や他の機関の好事例を発信することによって、少しでも研究費使用にあたり、大学側の印象を緩和できたらと思います。

残念ながら制度が少し変わることによる影響力が大きく、慎重になることがあるため文科省がすぐに行動へと移すのは難しいですが、内部はじわじわと変わってきているのが所感です。そのため、関連企業の皆さんにはサービス利用者などの形で事例紹介の協力をしてもらえると嬉しいです。

共用を通じた研究力の強化に向けて

――水田さんが考える研究基盤整備の展望について教えてください。

水田:研究設備や機器が組織の中で効率よく共用され、活用される循環を作りたいです。そのためには、全国で共用の考え方が進展するとともに、最先端の機器などは組織を超えて共用が進めばと考えます。私は共用の促進を中心に携わっていますが、それが全てだとは決して思いません。

施設・設備の老朽化への対応やその更新も含めて考える必要があります。これは文科省だけではできないため、機器利用に係る広報やサイトアップデートの知見を皆さんから学ぶことで、民間と公的機関のWin-Winの連携が取れるような体制ができればと思います。


――共用事業はまだまだ開始したばかりですが、5年後や10年後はどのような将来を描いていると思いますか。

水田:確かに私が担当している事業は、2015年にスタートしたということもあり、ある意味でスタートアップと同じです。そのため、今後5〜10年間は定着期だと思います。だからこそ、定着を進めるために、特に、共用のための制度や積極的に取り組まれる方々のインセンティブの在り方について様々な方達と議論をしていきたいです。

私としてはより大学に足を運び、研究者の方々に会い、現場の困りごとや思いを組んだ政策の実施に取り組みたいです。実験機器のシェアリングを文科省からどんどん進めていき、日本全土の研究環境を少しでも強化していき、研究者の方々が研究をしやすい環境の構築に取り組んでいきたいです。


――水田さん、ありがとうございました。

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